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2011年04月29日

●原発七不思議  3億ベクレルと60京ベクレル・・・見事な変身

                           by 武田邦彦

1年1ミリシーベルトが「適切か」という議論は要らない。
それが40年来、専門家が協議して決めてきた放射線量だから。
それがなぜ覆され、子供にすら20ミリ
(外部だけ、それも室内を2.5分の1にしてあるが)の被ばくをさせているのか?
・・・・・・・・・
新潟の柏崎刈葉原発が中越沖地震で壊れたとき、
大気や海水に3億ベクレルの放射性物質が流れたとされている。

昔から原発に批判的だったある大手の新聞は、
事故の後の7月17日朝刊一面の見出しで、
「放射能を含む水、外へ 柏崎刈羽原発揺れ 国内最大」
と書いた。

ところが、福島原発では、3億ベクレルの20億倍、60京ベクレル以上
放射性物質が大気と海に流れたのに、
「健康に影響がない。もともとガンになる人は全人口の33%なのに対して、
100ミリシーベルトをあびても0.5%にしか過ぎない。
だから今回の放射線はたいした事はない。」
という記事を出した(2011年4月24日日曜日朝刊)。

3億ベクレルなら大変だが、
その20億倍の6京ベクレルになると安全になるというのが
この新聞の考え方だが、このような突拍子もない考え方はどこからでてくるのだろうか?
・・・・・・
時々、大新聞の取材を受けるが、記者はとても優れていて、常識的だ。
そしてやや政府にも批判的で、記者としての精神も失っていない。

それが、原発と放射線のことで大転換を行った理由はなんだろうか? 
普通に考えると「福島原発では、政府の圧力に負けた」となるが、
本当に大新聞ともあろうものが、そんなに簡単に政府の圧力に負けて、
「20億倍のジャンプ」をするのだろうか?

それも4月25日というとすでに福島原発はかなり安定していて、
「パニック」になる可能性などはない。
だから、なおさらその「見事な変身」に驚くばかりである。
・・・・・・・・・
今回の福島原発では、大新聞ばかりではなく、
これまで「放射線は怖い」と言い続けて来た人たちが大きくその発言を変えた。
そのうち、「専門家」と言われる人たち(放射線の専門医とアイソトープ関係者)の
変身ぶりもかなり見事である。

・・・・・・「放射線の専門医」・・・・・・

あるお医者さんから「放射線の専門医の国家試験」の問題集を送っていただいた。
それを読むと、「低線量率の障害は確率的」であると毎年、出題されている。
ということは、「放射線の専門医」は「低線量率で致死ガンと遺伝性障害」がでるということを
「専門医の国家試験」では「正しい」と回答していた。

しかし、その専門医の一部の先生が福島原発については、
「低線量率では何も起こらない」と繰り返し発言している。
これも普通に考えると、
「確かに、医師の国家試験の時には合格しなければならないから、
1ミリでも致死ガンになるというのに○をつけたが、普段から低線量率ではガンにならない」
と個人的に思っていたが、言い出せなかった。
だから、実際に福島原発で大量の放射性物質が漏れたので、
自分の本心を言おうと思った。」
と言われるだろう.

・・・・・・「アイソトープの専門家」・・・・・・

普段は、「放射線を業としている(規制値以上のものが多くなれば儲かる仕事)」
彼は次のように言うかも知れない。
「普段は規制値が低い方が商売の対象となるものが増えるので、
それだけ儲かるから、1ミリと言っていた。
しかし、事故のあとは、私のところは政府の補助金が入っているので、
政府が100ミリと言えば、それに従うしかない。
それで子供がガンになっても、自分の生活が大切だから仕方が無い」
・・・・・・・・・

でも、本当のところは、いずれも違うと思う。
すでに、日本社会は事故から1ヶ月半になり、パニックになる雰囲気でもないし、
大人は少しの儲けぐらいで、子供の被曝量を増やすのも良くないことは知っている。

私は「新聞記者も医師も、専門家も急に変節した」という原因は、次のことと思っている。

1. 3億ベクレル(健康に影響が無い範囲)なら判断できるが、
    6京ベクレル(健康に影響がある範囲)になると、怖くてどうしようもなくなり、
    頭が真っ白になって判断力を失った。

2. 6京ベクレルの結果を見るのが怖かったので、とりあえず影響がないということで
    ごまかしたかった。

3. 科学的事実を直視する勇気が無く、自分で判断しなくてすむ社会の空気を重んじた、
    ということのように思う。

大人の勇気と判断力が、
子供の運命を決めるのは今に始まったことではないが、
日本人として残念だ。
                 (平成23年4月27日 午後8時 執筆)
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