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2011年08月28日

● 「ドクター落語で百まで生きる」 

      稲垣元博(芝病院名誉院長)

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「あなたも百まで生きられる」。

――医師・稲垣元博は、この講演を終えた後、
落語家「稲垣亭三河」に変身します。

人呼んで、ドクター落語。


演目はすべて創作で、
がん予防や禁煙をテーマに十数編を数えます。

十八番の一つである「オッパイは成功のもと」は、
脳卒中で右半身の麻痺したおじいさんが、
入院中のおばあさんの胸に触りたい一心で
リハビリの猛特訓に励むという話。

いずれも患者の方とのやりとりの中で得た
学びや実話に基づいています。

面白おかしく健康の秘訣が学べるとあって、
あちこちから声をかけていただき、
過去五年間で四百回以上の講演会をこなしてきました。


着物や袴、大量の資料などを詰め込んだ十五キロの荷物を持ち、
北は東北から南は九州まで年中飛び歩いています。

今年、八十八歳になるこの年で我ながらよくやるなと思いますが、
皆さんの前でお話をさせていただくと、
こちらも爽やかな気分になって
一切の疲れが吹き飛んでしまうのです。


       * *


私がドクター落語を始めたのは、約四十年前のことです。
病院の検査技師向けに、夜間の講義をしていましたが、
最前列の学生までが机に突っ伏して寝てしまう始末。

これは教える側の熱意が足りないからだ、と
いろいろ手を尽くした末、考えついたのが、
落語調のユニークな話を織り交ぜ、
皆を笑わせて眠気を覚ますという方法でした。

やがて噂を聞きつけた新聞社から
「交通事故の話を落語で書いてくれ」と依頼がありました。

しかし本物の落語を見たのは一度きり。
四苦八苦しながら原稿を書き上げたところ、
今度は「肝臓の話を落語で」と
組合の機関紙から原稿を頼まれました。

これはいよいよ本気で取りかからねばと落語全集を手に入れ、
なるほど、落語のオチには十六も種類があるのだな、と
真剣に勉強を始めるようになりました。


そんなある日のことです。

病院の組合の委員長が
「先生、患者さんたちのクリスマス会で落語をやってください」
と言うのです。

書くには書いたことがあるが、
落語なんてやったことがないと断ると、

「いえ、うちの患者さんたちだから、
 どんなに下手でも笑ってくれます」
 
と譲りません。しょうがない、何とかするかと苦しみの末、
一本の噺をこしらえました。

そして本番当日、噺のオチを

「皆さんには楽しい日かもしれませんが、
 あっしにとっちゃクリスマスどころか、大変クルシミマス」
 
としたところ、大受けして万雷の拍手。

その中に


「先生の話を聞いて、寿命が六年延びました」


と褒めてくださったお年寄りがいました。
重症状態だった患者の方です。
お世辞にしてもずいぶん大げさなことを言うなと
思っていたところ、本人は日を追うごとに
みるみる元気になっていき、
とうとう退院を果たされたのです。

そして言葉の通り六年間長生きされ、
これには私のほうが驚いてしまいました。


笑いというのは、人間にとって
非常に重要な意味を持っていると感じたのはこの時です。
それ以降、看護師の結婚式や医師会の文化祭があるたびに、
自ら進んで落語をするようになりました。


       * *
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現在、「笑い」は、がん予防やストレス解消、
老化防止につながるなど、様々な効能が報告されています。
まさに笑いは健康のもとであると言えるでしょう。

私の場合は学生を眠らせまいと苦心の末、
考え出したものでしたが、
落語を通して得られる笑いのテクニックは、
いまでも週一回行っている診察の際にも大いに役立っています。

患者の方はそれぞれに肉体的、精神的に深刻な悩みを抱え、
病院を訪ねてこられます。

その沈んだ気持ちを笑いで吹き飛ばすと
表情が徐々に明るく変化していき、中には
「先生の顔を見ただけで病気が治っちゃった」と、
薬を忘れて帰っていく方もいらっしゃいます。

「それじゃ全然商売にならないよ」と言って
こちらも笑いますが、医者は威張っているのではなく、
おもしろく話をする術も心得て、
真に患者の側に立った医療を
心がけていかなくてはならないと思います。

最近の世の中は、医療費を二割から三割に増やしたり、
介護保険料の負担を重くするなど、病人や老人、
つまり社会的に弱い立場にある人が
どんどん暮らしにくくなってきていると感じます。

私がドクター落語とともに行う
「あなたも百まで生きられる」の講演は、
六十年以上にわたる医療活動の中、
患者の方から教わった長寿の秘訣を集大成したものですが、
その最後を私はこう締め括ります。


「弱い者いじめをするいまの政治のあり方を
 年寄りの力で跳ね返し、私たちが安心して暮らせる
 世の中をつくっていかなければなりません。
 
 だから皆さん、六十、七十で死ぬのは無責任です。
 何としても百歳まで生きなきゃいけません」と。


講演をお聞きになる皆さんには


「私の言うことを守っていれば、必ず百歳まで生きられますよ」


と常々話をしてきました。
私自身が百歳まで生きることでその仮説を実証し、
誰もが安心して暮らせる世の中をつくるため、
今後も変わらぬ活動を続けていきたいと思います。


コメント

笑いの科学とまで言われて、笑えない多くの人々の日常生活を、潤してじゅれるお金の要らない健康法。

横隔膜が動くだけで、ホルモン分泌や、細胞間のミネラルが動いて若さを保っていてくれるなんて感謝感謝で、笑って生きて寿命が自然に延びていくなんて、凄い話です。

是非直接聞いてみたいです。
CDは出ていないでしょうか?

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