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2011年08月25日

●「鳥辺山心中」から

来月号の自然医学の原稿を書いていて、
たまたま浄瑠璃「鳥辺山心中」のことに言及した。
それを調べると、あのさだまさしさんが同名で唄を作っていた。
名曲「まほろば」や「鳥辺野」などと同列のものだろう。

彼の言葉選びの巧みさに感心しながら、
曲の叙情と男女のどうにもならない悲哀に打たれる。
昔も今も変わらぬものかと、思いながらも、
心中まで思い詰める切なさが、何事にも失われて来たように思う。


鳥辺山心中

                      作詩・作曲 : さだまさし

硝子細工の其の思い出の
割れたかけらで 凍えた指を切る
今だに二人居るかのような
夢の夢の夢こそ 哀れなれ
どれ程きれいにつこうと嘘は嘘
あなたがついたか 私がつかせたか
茨道 袖を裂く けもの道
陵墓づたいに 枯れた竹林
追いかけられるようで おそるおそる振り向けば
しづ心なくはらり 紅い寒椿


独り道行く身には あなたの
くれた傷の痛みさえ愛おしい
私の髪をすべるあなたの
指先の名残こそ 哀れなれ
どれ程きれいに刺しても傷は傷
私が刺したか あなたが刺させたか
耳を塞いでも 水の音
真昼の月 傾いて鳥辺山
遠くで嘲い声 誰かの嘲い声
小さな石になって 沈みゆく私
追いかけられるようで おそるおそる振り向けば
しづ心なくはらり 紅い寒椿
あなたのいくつかの 嘘を道連れに
私の心だけ 今 死んでゆく

一足ずつに 消えてゆく
夢の夢こそ 哀れなれ


        鳥辺野
                        作詩・作曲 : さだまさし

寂しいからとそれだけで来るはずもない 鳥辺野

山道をゆけば 散り急ぐ様に
遠近に寒椿の紅 道を照らす春まだき

風景自身が 淋しがってるから
ひとこまに身を置いただけで 自分が救われる

風はさや 風はさやさや
竹はゆら 竹はゆらゆら
振り返るより速く あなたは立ち去っていた

人の心移ろい易く その傷癒え難く
立ち止まって うろたえるは
愛と同じ重さの 悲しみ


木立の間に間に 埋もった枯葉
そんな風にあなたと私の それぞれの記憶の中で

お互いの事が やがて薄れてく
そこここに散りばめたはずの 真実までかすませて

夢はさや 夢はさやさや
嘘はゆら 嘘はゆらゆら
すれ違うより速く あなたが遠ざかってゆく

前のめりのまま 無造作に投げ出された愛が
季節に追われ ころんだまま
野晒しになっている 鳥辺野

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