まほろばblog

「いかに恐怖心と向き合うか」

5月 15th, 2013 at 10:48
   竹内 洋岳(プロ登山家)

              『致知』2013年6月号
               特集「一灯照隅」より

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十四座完登というのは、
もちろん簡単に達成できる目標ではありません。
山というのは登る喜びもある一方、
一つ間違えれば命を落とす危険も内包しています。

では、その危険に対する恐怖心をいかに克服すべきか。
実は、恐怖心というのは克服したり
打ち消したりしてはダメなのです。

恐怖心があるがゆえに、それを利用して危険を察知し、
危険を避けて進んでいくのです。

私の中では、危険な体験を重ねる度に
恐怖心が積み重なっています。

しかし恐怖心が増すということは、
危険に対するより高感度なセンサーを手に入れるようなもので、
決して悪いことではないと思っています。

これから起こりうる危険を、いかにリアルに想像できるか。
その感覚をどんどん研ぎ澄ましていけたらいいと思っています。

もちろん、登山で相手にするのは大自然という、
人間のコントロールを超える存在です。

いくら自分が登ろうと意気込んでも、
天候に恵まれるなど自然の了解を
得られなければ登ることはできません。

私たちにできることは、自然の了解が得られた時に
すぐアクションを起こせるよう十分な準備をしておくことです。

登山の準備で大切なことも、やはり想像力です。
それは頂上に到達できるという想像ばかりでなく、
到達できずに引き返すという想像であり、
時には死んでしまうかもしれないという想像です。

そして死んでしまうかもしれないという想像ができるなら、
どうすれば死なずに済むかという想像をする。

死なないためにいかに多方面に、多段階に、
緻密に想像できるかということを、
私たちは山の中で競い合っているのです。

ゆえに想定外というのは山の中では存在しません。
想像が及ばなかった時、登山家は命を落とすのです。

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