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「3は数の王様」

1月 29th, 2012 at 12:39

    澤田 則幸

(BRK経営計画コンサルティング事務所代表)

  『致知』2000年3月号「致知随想」
   ※肩書きは『致知』掲載当時のものです

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経営コンサルタントとしてこの20年以上に、
およそ20の業界に関わらせていただいたが、
その現場トップの考え方から私は最近、
3という数字の偉大さを思わずにはいられない。

「『1』は、数字のなかで最も大切である。
  なぜなら1は、すべての始めであり、
  1がなければなにもスタートしない」

これは尊敬する数学者・岡潔博士の言葉である。

私はここ20年来、岡博士の著書などから先生の思想哲学を
ビジネスに応用・実践できないものだろうかと考えてきた一人である。

俳優の津川稚彦さんは、動物の縫いぐるみを商品化した。
これは、岡博士の著書『春宵十話』に詳しい情緒哲学を
応用して開発したと聞いた。

「2」の数字は、なぜか難しい数であるという。
二枚舌、二重人格、二枚腰などどれをとっても、
どこか二クセありそうである。

会社のナンバー2は、組織上、たいへんな役目を担うことが多い。
それは職名でなく、2の数字の因果性に由来しているのではないか。
組織はナンバー2がしっかりしていなければ成長は難しい。

それは家も同様で、一般的に家庭のナンバー2は妻である。
しかし主婦が「主夫」である場合、男性がナンバー2の
役目を担うことになる。

つまり、2の数字は、必ずしも女性を意味しないのだ。
江戸後期の、国語辞書に「女男(めを)」とあるのは、
男女が順位のすべてではない。

つまり、わが国でも、2を女性と決めている訳ではないのである。

「3」は「数の王様」だ。その例を並べてみる。

・原則 例外 特殊(法律)

・目的 目標 手段(計画)

・短期 中期 長期(目標)

・ヒト モノ カネ(手段)

・戦争 中立 平和(政治)

・企画 提案 実践(仕事)

そのどれもがよく分かるのである。

すなわち、2つでもなく、4つでもない。
必ず3つである。

結婚式の三々九度は、この三を3度繰り返す。

3つの概念を並べると「全体」を示して
このように、1つのテーマを3つで表現すると、
過不足がない。

つまり、世界のあらゆることは、
3つの概念で成立しているのではないか。

私たちは、立体すなわち三次元の世界までは認識でき、
四次元の世界を認識できないことと同意なのだろう。

小樽の米沢印刷・米沢正社長からは「経営実学」を
手を取るようにご指導いただいた。

ある日、経営のコツを質問すると米沢社長は
三つの概念でキッチリと答えられた。

1、集金に行くこと。
2、社員の給料を払うこと。
3、仕入代金を期日に払うこと。

の三つ他は無し、と。

そしてこのことに、学歴や新知識が必要か、と付け加えた。
その米沢社長から、手ぬぐい一本から財閥を
つくり上げたという財界人自筆の巻紙「商人の道」の
実物をいただいた。

これは私の事務所に掲げ、いまも勇気の拠り所として大切にしている。
これと同じ巻紙のことを、イトーヨーカ堂の伊藤雅俊会長は
『商いの道』に書いておられた。
氏も会長室に掲げておられるという。

秋田の第一水産・上村治輔会長は
「商い」を知る優れた経営者である。

ある日、上村会長は水産現場の作業服のままで、
てっきり近くの支店にでもいくものとばかり思っていたが、
着いた所は羽後銀行(現北都銀行)の本店頭取室であった。

上村会長は、鈴木頭取と随分親しそうに30分程話された。

私は、頭取との交渉事はこのような話し方をするものなのかと
思いながら同席していた。
会長は無言であったが「商い教育」のため、
私を同席させたのだった。

帰路、会長は、次のようにやはり「3つ」の概念で語られた。

1、銀行に使われるな。
2、銀行を使える者になれ。
3、商は人・物、そして金、と。

北海道庁の元公営企業管理者の浅井理一郎さんは、
地方財政のエキスパートであった。
しかも、政治力もあり、上司にも部下にも信頼の厚い人で
「浅井学校」と畏敬されていた。

そこには秘密があった。
私が組織の人間関係でどうしようもなく悩んでいたとき、
教えを請うたことがある。

すると、やはり次のごとく「3つ」で答えられた。

1、人の悪口は、絶対にいわないこと。
2、褒めるときは、直接は駄目。陰でのみ褒めること。
3、仲間が、悪口を話し始めたときは、口をつぐむこと。

なぜなら、両方とも本人の耳へ、必ず届くものだから、と。

浅井さんは、簡単なようでいて哲人的なこの手法を、
厳しく実践していたのである。
長い年月ご指導を受けたが、確かに他人の悪口を
一度も浅井さんから聞いたことがない。

私には現代の『論語』ではなかったかと思えるのだ。

私は、その二十年の“研究成果”を、
このほど『経営の現場から「考え方」の研究』という
一冊の本にまとめ、これまでお世話になった方々に
謹呈しているところだ。

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