まほろばblog

なつかしき人、平澤興先生

6月 15th, 2013 at 10:52
致知出版社社長・藤尾秀昭の「小さな人生論」

      2013/6/15 致知出版社(毎月15日配信)

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平澤興先生に出会えたのは私の財産です、
と私は講演の時によく話します。

森信三先生、坂村真民先生に出会えたのも同じです。

初めてお会いしてからもう30年近くが過ぎますが、
年を経るごとに、「逢い難くして逢うを得たり」の思いを深くしています。

その平澤先生の25回忌が6月17日に新潟で行われると、
平澤先生の晩年、秘書としてよく仕えられた早川さんが教えてくれました。

当日は、私は所用があり参加できませんが、
没後25年、先生のお人柄と教えは今も温かく、
私を導いてくれています。

平澤先生はお会いすると、
人をホッとさせるような人格の力をお持ちの方でした。
しかし、自分には相当厳しい人だったようです。

数年前、平澤記念館で、
平澤先生の同級生が先生を評した言葉に出会いました。

「平澤君は非常な努力家でありました。
 人間努力をすれば最もすぐれたところまで進み得ることを
 彼は身をもって教えてくれました」

同級生からこういう評価をされるほどの努力家であった、ということです。

そういえば、伝説的になっている先生の若かりし頃の勉強ぶりがあります。

先生は四高から京都大学医学部に入学するのですが、
これまでのような受身の勉強ではなく、
命がけの勉強をしようと決心し、
昼間は大学の講義を聞き、
夜は先生の話した外国の参考書を原典で読み、
そして自分独自のノートを作るという計画を立てられました。

それを全部やると、睡眠時間は4時間ほどしかとれません。
そういう生活をひと月ほど続けているうちに
先生はノイローゼのようになってしまいます。

そんなある日、
故郷の雪原を1人で歩いていると、
ベートーヴェンの言葉がドイツ語で聞こえてきたといいます。

「勇気を出せ。
 たとえ肉体にいかなる欠点があろうとも、
 わが魂はこれに打ち勝たねばならぬ。
 25歳。そうだ、もう25歳になったのだ。
 今年こそ男一匹、
 本物になる覚悟をせねばならぬ」

25歳のベートーヴェンが耳の病気で絶望的になろうとした時に、
自分自身を鼓舞すべく日記に書いた言葉です。

その言葉がドイツ語で聞こえてきたというから、
すごいですね。

その言葉に励まされ、先生は自分を取り戻すのです。

そして、また新たな計画を立て直します。
それは実習には出るが講義には出ず、
その代わり原書を読むことに専念する、というものです。

担当教授に示された原書は1月から6月までで
約3千ページ。それを朝2時に起きて、夜9時まで読む。
予定のページがすむまでは寝ないという計画を立て、
それを実行したのです。

まさに、非凡な努力です。

平澤先生は計画を途中でやめないためには、
「予定は自分の実力以内で立てること」といっています。

1時間内に1ページ読める力があるなら、
予定はその3分の2か半分にする。
1か月も30日の中で、いろんな用事が出てくるから、
24、25日くらいにしておく。
そういう余裕のある計画を立てることが大事だといわれています。

平澤先生は89歳で亡くなられましたが、
その独特の人間的魅力と、
若年期の勉学に打ち込む姿は無縁ではないと思います。

平澤先生の語録『生きよう今日も喜んで』には
人生の達人たる先生のすばらしい言葉が
ちりばめられていますが、
私自身が心に留めている先生の言葉を
最後に紹介したいと思います。

「生きるとは燃えることなり
 いざやいざ 進まん 
 この道
 我が燃ゆる道」


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