まほろばblog

「発心、決心、持続心」

1月 25th, 2013 at 9:09

                『致知』2010年12月号
                    特集総リードより
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当社のロングセラーの一つ、鍵山秀三郎氏の
『凡事徹底』の中に、夏目漱石が
弟子の芥川龍之介に言った言葉が紹介されている。

「世の中は根気の前に頭を下げることを知っています。
 火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。
 だから、牛のよだれのようにもっと根気よくやりなさい」

夏目漱石は単なる文才の人ではなく、
深く人生を見詰めた人であることを物語る一言である。

漱石については、新潮社を創立した佐藤義亮氏も
その著書(『明るい生活』)で興味深い逸話を記している。

漱石の書は何とも言えない気品があって、誰もが欲しがった。

漱石門下の某氏もその一人で、かねがね何度か所望したが、
一向に書いてくれない。

ある時、夏目邸の書斎で某氏はついに口を切った。

「前から何度もお願いしているのに、
 どうして僕には書いてくださらないんですか。
 雑誌社の瀧田(樗陰)にはあんなにお書きになっているのだから、
 僕にも一枚や二枚は頂戴できそうなもんですな」

漱石は静かに言ったという。

「瀧田君は書いてくれと言うとすぐに毛氈を敷いて、
 一所懸命に墨をすり出す。紙もちゃんと用意している。
 都合が悪くていまは書けないというと、
 不満らしい顔も見せずに帰っていく。

 そして次にやってくると、都合が良ければお願いします、と
 また墨をすり出すんだ。
 これじゃいかに不精なわしでも書かずにいられないではないか。 
 

 ところが、きみはどうだ。

 ただの一度も墨をすったことがあるかね。
 色紙一枚持ってきたことがないじゃないか。
 懐手をしてただ書けと言う。

 それじゃわしが書く気にならんのも無理はなかろう」

この逸話にこもる実を見落としてはならない。
ここには発心・決心・持続心のエキスが詰まっている。

 誠の一字、中庸尤も明かに之れを先発す。

 読んでその説を考ふるに、三大義あり。
 
 一に曰く実なり

 二に曰く一なり

 三に曰く久なり

吉田松陰の言葉である。

「誠」は『中庸』の中で明らかに言い尽くされている。
「誠」を実現するには、
実(実行)、一(専一)、久(持久)が大切である。
一つのことを久しく実行し続ける時に、
初めて「誠」の徳が発揚されてくる、というのである。
至言である。

さあ、やるぞ、と心を奮い立たせるのが「発心」である。
やると心に決めたことを実行するのが「決心」である。
そして、その決心をやり続けるのが持続心である。

発心、決心はするが持続しない人は、
動き出したと思ったらすぐにエンストを起こす
車のようなものである。

誰からも見向かれなくなる。
私たちは自分をエンストばかりする欠陥車にしてはならない。

小さな努力をコツコツと、久しく積み重ねること。
これこそが自己を偉大な高みに押し上げていく
唯一の道なのである。

古今に不変の鉄則を心に刻みたい。

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