まほろばblog

『TPPが日本を壊す』

9月 20th, 2011 at 12:33

       『TPPが日本を壊す』

        廣宮孝信・著 青木文鷹・監修 扶桑社

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  こんにちは、土井英司です。

  毎日新聞が、こんな記事を発表していました。

 <農業などあらゆる分野の関税撤廃を原則とする環太平洋パートナ
 ーシップ協定(TPP)の交渉に、日本が参加するかどうかの判断
 を、日本政府が迫られている。米国が参加する貿易自由化協定であ
 るため、政府与党内には「成長戦略に欠かせない」との主張がある
 一方、農業などへの影響を懸念する声は強い。TPP交渉参加9カ
 国が大筋合意を目指す11月末は目前だが、野田政権は難しい判断
 を迫られそうだ。【野原大輔、和田憲二】>

本日の一冊は、現在政治の焦点となっているTPPについてわかり
やすくそのメリット/デメリットをまとめた一冊。

日本政府はこのTPPを進める考えのようですが、加盟すると、日
本の産業に大きな影響が予想され、業界によって明暗がはっきりと
分かれそうです。

たとえば、商社にとっては商圏が拡大する上、業務上の手続きが簡
素化するため、メリットだらけ。小売も日本に居住する外国人が増
えることによってお客が増えますが、地方自治体にとっては、政府
調達開放に必要な新規コスト(資料の翻訳=税金から賄われる)が
発生します。

この辺は、業界によって言うことが違ってきそうなので、情報発信
者の利害関係に十分注意を払う必要がありそうです。

本書によると、TPPは農業だけの問題ではなく、公共事業や地方
の中小企業に、甚大な影響を及ぼす可能性があります。

しかも、大きなリスクをはらんでいる割に、マーケットが広がるか
どうかわからないということで、本書では、「もし日本にとって農
業を守りつつ市場を広げたいのであれば、ペルー、コロンビアの2
か国とFTA/EPAを結べばこと足りる」との見解を示しています。

もちろん、悲観派の書いた本であり、ここで示された見方がすべて
とは言えませんが、巻末には実際の条文の和訳も付いており、TP
Pが何か、おおまかに把握するには、手頃な一冊だと思います。

ぜひ読んでみてください。

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帝国データバンクによる全国1万社を対象としたアンケートでは
「TPP参加が日本にとって必要」とする国内企業は65%にものぼる

反対側の旗印は何といっても「農業保護」でしょう。高い関税で守
られている農産物の関税がゼロになってしまえば、農家にとっては
まさに死活問題

TPPがFTA/EPAと決定的に違うのは、FTAはお互いの国
情に合わせて譲れない分野を例外とし、残りの分野で関税撤廃など
の連携を広げるのに対し、TPPはその例外を一切認めない

経済産業省はTPPに参加しなければ、2020年の時点でGDPが10
兆5000億円減少するとし、内閣府も参加によってGDPが2兆~3
兆円のプラスになるというデータを発表しています

農業・漁業者とその関連団体が反対するのは、コメの778%をはじめ
牛肉は38.5%など輸入農水産物には関税がかかられ、もしその関税
が撤廃されてしまえば、安い外国の農水産物が国内市場を席巻し一
次産業が大きな痛手を負うからです。北海道の試算によると、地域
経済の損失は2兆1254億円に及び、道内全体で17万3000人の雇用が
失われるとしています

農林水産省もTPP参加で約4兆5000億円の生産減となり、食料自
給率は40%から13%に低下し、関連産業も合わせた影響額はGDP
が8兆4000億円減少、350万人の雇用が失われるという試算を出して
います

TPP参加によって日本的なローカルルールが規定に抵触するとい
うことは、終身雇用や社会保障が否定されるということと同義

入札価格の基準ラインが下げられることで、市区町村レベルの公共
事業でも大型案件はすべて国際競争入札の対象になる

基本的にはTPPによって貿易障壁のない「商圏」が広がります。
それだけでなく、商社にとっては手続きの平準化、特に「原産地表
示」と「貿易手続き」の面でその負担が軽減されるでしょう

日本経済においては景気変動における労働需要の変化に対し、建築
業が事実上の安全弁として機能してきた歴史があります。またデフ
レが続いている現在でも、この「雇用維持機能」や「景気浮揚機能」
としての公共事業は地方ではより重要な役目を果たしています。し
かしTPP加盟後は海外企業が落札してしまい、今まで景気対策や
雇用対策として機能していた公共事業がその機能を失ってしまうか
もしれません

アメリカは自動車や工業分野などお互いの得意分野が重複している
ため、日本とは「利害対立国」です。これらの利害対立国を除くと
日本がFTA/EPAを結んでいない国は事実上ペルー、コロンビ
アのたった2か国だけになってしまうのです。もし日本にとって農
業を守りつつ市場を広げたいのであれば、ペルー、コロンビアの2
か国とFTA/EPAを結べばこと足りる。

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