まほろばblog

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「人の痛みがわかる本当のチャンピオンになれ」

火曜日, 11月 15th, 2011

       
       
   山下 泰裕 

 (東海大学体育学部教授、柔道部監督)
        
  『致知』2001年1月号
   特集「学び続ける」より
            

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今回のシドニーオリンピックを振り返ってみて
非常に嬉しいことがあります、

一つは篠原(信一選手)が決勝戦で負けましたね。
誤審ではないかと私も抗議しましたが、篠原は
「あれは自分が弱かったから負けた」
「審判に不満はない」という発言をしました。

篠原は、たとえあれが自分の一本ではなくて
相手の有効になったとしても、
本当に自分に力があったら、残り時間は十分にあったし、
あの後で勝てたはずだ。

本当の力が自分になかったから、
それを取り戻せなかっただけで、
そういう意味で自分に絶対的な強さがなかった、と。

それから「審判に不満はない」というのは、
審判が間違えるような、そんな試合をした自分に責任がある。

だれが見ても納得するような柔道を
しなければいけなかったんだ、ということです。

他人を云々(うんぬん)するのではなく、それに対して
自分がどうすべきであったかと、自分自身を深く見つめる

ああいうことが起きて、初めて彼が本当はどういう人間なのか、
どういうことを大事にしているのか、
それが明らかになったと思うんですね。

そこには人間として非常に大事なことが
含まれていると思うのです。

われわれは何か事が起こるとすぐに人を批判します。
だけど、人を批判しても何の解決にもならないんですね。
それに対して自分はどうあるべきか、自分は何ができるのか、
すべてを自分に置き換えて考えていかないと、
何も解決しないんです。

篠原は見た目は、無骨でぶっきらぼうな男ですけど、
今回のことで彼の人間性を見たような気がするんです。

もう一つは初日に野村忠宏が六十キロ級で優勝しました。
前の日に試合のあった人間は、次の日の人間が
力を出し切ることができるようそばに付き人として
付くということを、前もって決めていたんですね。

それで試合が終わった日は、野村は明け方の四時ごろまで
マスコミの対応をし、次の日も朝八時から対応して、
それが終わってお昼の十二時に試合会場に、
車の中でハンバーガーを食いながら駆け付けて、
中村行成の付き人をやったんですよ。

それで中村が負けた。負けて控え室に帰ってきて、
がっくと座り込んで着替え始めた。

そのとき、野村が中村の柔道着をものすごく大事に
大切に一所懸命畳んでいるんです。

付き人は試合に向かうまでですから、
そこまでやる必要はないんです。

それなのに負けた中村の柔道着をものすごく愛しそうに
丁寧に丁寧に折り畳んでいる。

その野村の姿を見たとき、われわれコーチも
ものすごく心打たれた。

ああ野村は人間的にもまた成長したな、
人の痛みがわかる本当のチャンピオンになったな、
と思ったものです。

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●山下泰裕氏から『致知』にいただいたメッセージ
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 『致知』には各界のリーダーの生き方が紹介されています。
 深い人生体験を積まれた方々の
 勇気と力を与えてくれる言葉に満ちています。
 
 『致知』は、前向きに挑戦して行く人間にぴったりです。
 これこそ私が求めていたものです。

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